胡蝶蘭ステーション

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【胡蝶蘭の簡易マニュアル】

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胡蝶蘭の根が銀色から緑色に変わるのはなぜ?

胡蝶蘭に水を与えると、それまで銀白色だった根が鮮やかな緑色に変わります。まるで根そのものが水によって着色されたように見えますが、実際には色素が新しく作られているわけではありません。

この変化には、胡蝶蘭の根を覆っている「ベラメン」と、その内側にある葉緑体が関係しています。

銀色に見える正体は「ベラメン」

胡蝶蘭は樹木の幹や枝に付着して生活する「着生植物」であり、雨水や霧、周囲の有機物などから水分と養分を得ています。

しかし、樹上では土の中のように、いつでも水を吸収できるとは限りません。そこで胡蝶蘭の根の表面には、「ベラメン」と呼ばれる特殊な組織が発達しています。

ベラメンは、成熟すると中身を失った死細胞が何層も重なってできています。細胞壁だけが残り、その内部には細かな空間が多数存在します。そのため、スポンジのような構造になっています。

乾燥しているとき、この空間は空気で満たされています。空気と細胞壁では光の屈折率が異なるため、根に入った光が強く反射・散乱します。その結果、根の内部にある緑色が隠れ、表面が銀白色に見えるのです。 物理学的な視点からベラメンを調べた研究でも、乾燥したベラメンの銀白色は、死細胞の内部を満たす空気による光の反射で生じると説明されています。

水を含むと内側の緑色が見える

水やりをすると、ベラメンの細かな空間に水が入り込み、それまで入っていた空気と置き換わります。

水と細胞壁の屈折率は、空気と細胞壁ほど大きく異なりません。そのため光の反射や散乱が弱まり、ベラメンが半透明に近い状態になります。

すると、それまで銀白色のベラメンに隠れていた、内側の緑色の組織が透けて見えるようになります。これが、水に濡れた胡蝶蘭の根が緑色になる理由です。

緑色の正体は葉緑体

ベラメンの内側には、生きた細胞があります。この細胞には光合成を行う「葉緑体」が存在するため、緑色に見えます。

2024年に発表された研究では、胡蝶蘭の根から葉緑素が検出され、光を受けた根が実際に光合成を行うことも確認されました。もっとも、胡蝶蘭が作るエネルギーの中心は葉であり、根の光合成が株全体にどの程度貢献するかについては詳しくわかっていません。この研究では、光が当たった根で作られる酸素が、太い根の内部で起こりやすい酸素不足を軽減する可能性も示されています。

ベラメンは水を吸収するだけでなく、光合成を行う内側の組織を紫外線から守る役割も持っています。また別の研究では、ベラメンが紫外線を吸収し、内側の細胞を保護することが示されています。

ベラメンは水を取り込む「一時貯水槽」

ベラメンの細胞壁には細かな孔があり、雨粒などが触れると、毛細管現象によって水が内部へ広がります。取り込まれた水はベラメンに一時的に保持され、その後、ベラメンの内側にある外皮を通って、生きた皮層細胞へ移動します。

ベラメンは水を素早く確保する一時貯水槽として働き、植物体内に水が取り込まれると考えられています。 この仕組みは、雨が降ったときに短時間で水を確保しなければならない、樹上生活への適応です。

根の色は水やりの目安になる?

根の色は水やりの判断材料になります。

根が緑色なら、ベラメンが水を含んでいる可能性が高いため、すぐに水を与える必要はありません。根が銀白色に戻り、植え込み材も乾いて鉢が軽くなっていれば、水やりを検討するタイミングです。

ただし、「銀色になったら必ず水を与える」という判断はおすすめできません。

鉢の表面や外側の根が銀色でも、中央部の水苔がまだ湿っている場合があります。特に水苔を固く詰めた鉢や、複数の株を寄せ植えした贈答用の胡蝶蘭では、鉢の中に水分が長く残ることがあります。

水やりの判断では、以下のような条件を総合的に確認しましょう。

「見えている根が銀白色になっている」

「水苔やバークの内部まで乾いている」

「鉢を持ったときに軽く感じる」

「前回の水やりから数日たっている」

「季節、室温、風通しを考慮する」

また、水を与えても緑色にならないからといって、必ずしも根が枯れているとは限りません。

植え込み材の内部や光の当たらない場所で育った根は、葉緑体の発達が少なく、濡れても白色や黄色がかった色に見えることがあります。硬さと弾力があり、表面がしっかりしていれば、生きている可能性があります。

反対に注意したいのは、次のような根です。

「茶色または黒色に変色している」

「指で触ると柔らかく、つぶれる」

「表面がぬるぬるしている」

「外側が抜けて、中心の細い芯だけが残る」

「不快なにおいがする」

このような根では、過湿などによって根腐れが進んでいる可能性があります。色だけでなく、硬さや形も確認することが大切です。

まとめ

胡蝶蘭の根が銀色から緑色に変わるのは、根の中に新しい色素が作られるからではありません。

乾燥時にベラメンを満たす空気が光を反射・散乱するため、根は銀白色に見えます。水を含むと空気が水に置き換わり、ベラメンが透けてその内側にある葉緑体の緑色が見えるようになります。

普段何気なく目にしている根の色の変化は、胡蝶蘭が樹上で限られた水を効率よく取り込みながら生きてきた証でもあります。

次に水やりをするときは、根が緑色へ変わっていく様子を観察してみてはいかがでしょうか。一本の根の中にも、胡蝶蘭が長い時間をかけて身につけた、巧みな生存戦略が隠されています。

参考文献

「Hauber, F., Konrad, W. & Roth-Nebelsick, A.(2020)Aerial roots of orchids: the velamen radicum as a porous material for efficient imbibition of water. *Applied Physics A*, 126, 885. https://doi.org/10.1007/s00339-020-04047-7」

「Polverini, E. et al.(2024)Root photosynthesis prevents hypoxia in the epiphytic orchid Phalaenopsis. *Functional Plant Biology*, 51(3), FP23227. https://doi.org/10.1071/FP23227」

「Chomicki, G. et al.(2015)The velamen protects photosynthetic orchid roots against UV-B damage, and a large dated phylogeny implies multiple gains and losses of this function during the Cenozoic. *New Phytologist*, 205, 1330–1341. https://doi.org/10.1111/nph.13106」