胡蝶蘭というと、美しい花の形や鮮やかな色を思い浮かべる人が多いでしょう。
贈答用としてよく見かける白い大輪の胡蝶蘭は、ほとんど香らないものが多いため、「胡蝶蘭には香りがない」と思われることが多いです。しかし、すべての胡蝶蘭が無香というわけではありません。原種やその性質を受け継いだ交配種の中には、はっきりとした香りを楽しめるものがあります。

香りを持つ原種
胡蝶蘭には、野生に存在する原種と、複数の原種を交配して作られた園芸品種があります。
一般に流通している大輪の胡蝶蘭は、花の大きさ、花数、並び方、花持ちなどを重視して改良されてきました。そのため、香りが弱い品種が多くなっています。
一方、芳香を持つ原種には、次のようなものがあります。
・ファレノプシス・ベリーナ(Phalaenopsis bellina)
・ファレノプシス・ビオラセア(Phalaenopsis violacea)
これらを交配親に持つ園芸品種にも、甘くさわやかな香りを受け継いだものがあります。ただし、交配に使われていても、すべての子孫が強く香るとは限りません。
香りの正体は揮発性成分

私たちが花の香りとして感じているのは、花から空気中へ放出される「揮発性有機化合物」と呼ばれる成分です。ファレノプシス・ベリーナの香りには、主に次のような成分が確認されています。
・リナロール(花や柑橘類を思わせる甘くさわやかな香り)
・ゲラニオール(バラに似た甘い香り)
・オシメン(草木・柑橘系のさわやかな香り)
これら複数の香り成分が混ざり合うことで、それぞれの胡蝶蘭に特有の香りが生まれます。
香りは一日中同じではない
ベリーナとビオラセアでは、主な香り成分の放出量が昼間に増え、暗くなると低下することが報告されています。この変化には光だけでなく、植物が体内に持つ約24時間周期の「概日時計」も関係しています。
つまり、香りの強い品種を夕方や夜に嗅いで「ほとんど香らない」と感じても、翌日の明るい時間には香りが強くなっている可能性があります。
ベリーナかビオラセアを交配親に持つ交配種の香りを確かめるなら、よく晴れた日の午前から昼ごろがおすすめです。
咲き始めは香りが弱いことも
花が開いた直後から強く香るとは限りません。
ファレノプシス・ベリーナを調べた研究では、つぼみや開花当日には香りがほとんど検出されず、開花から数日後に香りが強くなりました。香りの放出は開花後5日ごろに最も活発になり、花が老化すると低下しました。
そのため、開花したばかりの花に香りがなくても、数日後に香り始める可能性があります。
まとめ
その香りは、リナロールやゲラニオールなどの成分から作られ、時間帯や開花後の日数によって強さが変化します。見た目だけでなく、香りにも一日のリズムがあるのです。
美しい花を眺めるだけでなく、明るい時間にそっと香りを確かめてみてはいかがでしょうか。これまで気づかなかった胡蝶蘭の魅力に出会えるかもしれません。
参考文献
「Chuang, Y. C. et al.(2017)Diurnal regulation of the floral scent emission by light and circadian rhythm in the Phalaenopsis orchids. Botanical Studies, 58, 50. https://doi.org/10.1186/s40529-017-0204-8」
「Huang, H. et al.(2021)Terpene Synthase-b and Terpene Synthase-e/f Genes Produce Monoterpenes for Phalaenopsis bellina Floral Scent. Frontiers in Plant Science, 12, 700958. https://doi.org/10.3389/fpls.2021.700958」











